相続放棄の法律相談
1.相続の開始と相続放棄について
相続は死亡によって開始され、民法第915条1項により、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において、伸長することができる。」と定められています。単純承認、つまり相続する場合には、特段の手続は必要ありません。
しかし、限定の承認又は相続放棄を行う場合は、家庭裁判所における手続が必要となります(民法第915条1項)。
民法第938条により、「相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。」と定められています。相続放棄をする場合は、お亡くなりになった方、つまり被相続人(以下では「被相続人」といます。)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所にて相続放棄の申述を行う必要があります。相続放棄の申述期間は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3箇月以内です。
相続の開始があったことを知った時から3箇月であり、必ずしも被相続人がお亡くなりになった時から3箇月ではありません。
ご自身が相続人であることを知らなかった又は被相続人がお亡くなりになった事実を知らなかった場合は、ご自身が相続人となった事実を知った日から3箇月ということになります。
ただし、民法第921条の規定により、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、相続人は単純承認をしたものとみなされます。
そのため、相続放棄をする場合は、被相続人の資産を自分の物にしたり、自分のために使ったり、負債を支払ったりすることもできませんので、十分注意してください。
2.相続放棄の手続に必要な書類について
相続放棄の申述に必要な書類には相続放棄申述書や戸籍関係書類があります。
(1) 相続放棄申述書について
相続放棄申述書には、申述人、つまり相続放棄をする方(以下では、「申述人」といいます。)の本籍地、現住所、氏名、生年月日、職業、被相続人との関係性について記載します。また、被相続人の本籍地、最後の住所、死亡当時の職業、氏名、死亡日も記載します。さらに、申述人が相続の開始を知った日や相続放棄の理由、相続財産(資産・負債)の概略を記載します。
被相続人の資産や負債について、普段から被相続人とのかかわりが一切なかった等の理由から、何ら手がかりがなく、詳細な内容が分からない場合は、概略のみでも構いません。
しかし、単純承認を行うか、限定の承認を行うか、又は相続放棄を行うか検討する上でも、被相続人の財産調査は必要不可欠となりますので、相続放棄の申述期間である相続の開始があったことを知った時から3箇月の間に、可能な限り被相続人の財産調査を行うと良いでしょう。
被相続人の資産については、戸籍謄本等の資料で相続人であることを証明することができれば、被相続人の固定資産評価証明書や名寄台帳を市区町村役場で発行してもらうことができますので、それらで不動産がないか確認します。
また、同じく相続人であることが証明できれば、金融機関においても、預貯金や出資証券等の取引がないか照会を行うことができますので、まずは被相続人の住所地の最寄りの金融機関に確認すると良いでしょう。
一方負債については、被相続人がお住まいになっていた自宅を訪れることができれば、請求書や催告書、借入時の契約書、申込書等がないか郵便受けや過去に届いていた郵便物を確認して下さい。
また、被相続人が自動車をお持ちの場合、自動車の中を確認できる状態であれば、車検証の所有者名を確認して下さい。所有者が被相続人名義でない場合、自動車のローンが残っている可能性があります。
このようにして、時間の許す限り、資産や負債を調査することは十分可能ですが、煩雑で時間を要することが多いので、弁護士などの専門家に調査を依頼すると良いでしょう。
また、相続の開始があったことを知った日から3箇月以内に、相続人は、単純若しくは限定の承認、又は相続放棄をしなければなりませんが、この期間内に被相続人の財産を調査してもなお、単純若しくは限定の承認、又は相続放棄のいずれを選択するか決定できない場合には、家庭裁判所に対する期間伸長の申立てにより、この3箇月の熟慮期間を伸長することができます。認められる伸長の期間は、個別具体的な事案により異なります。
このように調査して判明した資産及び負債は、一覧にして相続放棄申述書に添付します。
さらに、被相続人が負債を抱えることになった経緯や申述人が相続の開始があったことを知った経緯(被相続人がお亡くなりになった日と相続の開始があったことを知った日に時間経過がある場合はその理由)、相続放棄をしたいと考える理由(申述人の経済状況)等を別紙に記載し、相続放棄申述書に添付することで、相続放棄の申述内容を具体的に家庭裁判所に把握してもらうことができます。
(2)戸籍関係書類について
次に提出する戸籍関係書類についてです。必ず提出しなければならないのは、被相続人の住民票除票又は戸籍附票と申述人の戸籍謄本です。
被相続人と申述人との関係性によって、提出する戸籍関係書類はそれぞれ変わります。
被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本や被相続人の出生から死亡時までの全ての連続した戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本、被相続人と同一の戸籍に入っていたことが分かる申述人の戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本、被相続人の子でお亡くなりになっている方がいる場合は、その方の出生から死亡時までの全ての連続した戸籍(除籍、原戸籍)謄本の提出が求められる場合もあります。
また、被相続人と申述人、申述人以外の相続人の関係性が分かるように、相続関係説明図と資産及び負債の内容が分かる資料があれば、その写しも添付します。相続放棄の申述に必要な費用(弁護士を依頼する場合の弁護士費用は別途発生します。)は申述人1名につき800円です。相続放棄の申述書に収入印紙800円分を貼付の上、家庭裁判所に提出します。
郵便切手も納める必要がありますが、各裁判所によって運用が違いますので、相続放棄申述書を提出される家庭裁判所に事前に確認して下さい。
3.相続放棄申述書提出後の照会文書への回答について
相続放棄申述書を家庭裁判所に提出したら、後日家庭裁判所から申述人へ照会文書が送られてきます。照会文書はA4用紙2枚ほどの簡潔な内容となっており、相続放棄申述書に記載した内容の確認が行われます。申述人の本籍地や住所、氏名等の基本的な事項と被相続人と申述人との関係性、被相続人が死亡したことを知った日、申述人が、ご自身が相続できると知った日を記載するようになっています。
また、相続放棄の申述を行った方の確認、相続放棄の申述の意思確認、相続放棄の理由も記載するようになっています。
正しく事実を記載する必要がありますが、照会文書の回答と相続放棄申述書の記載に相違があってはいけません。記載内容に間違いがないように、提出した相続放棄申述書を確認しながら、回答します。申述人のご自宅に照会文書が届いてから約1週間以内に返送が求められることが多いので、返送が遅れないよう、十分気を付けて下さい。
4.相続放棄申述受理通知書について
家庭裁判所に回答書を返送した後、特に問題や調査が必要な事項がなければ、申述人へおよそ1週間以内に相続放棄申述受理通知書が届きます。
相続放棄申述受理通知書には被相続人、申述人の氏名、被相続人のお亡くなりになった日、申述を受理された日が記載されています。
これで、相続放棄の申述が正式な法的手続をもって受理され、効力が生じていることになり、民法第939条により、申述人はその相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます。
しかしこれだけでは、相続放棄の申述が受理されたことが債権者には把握されないので、債権者から引き続き負債の支払について請求を受けることがあります。
そこで、相続放棄の申述が家庭裁判所に受理されたことを通知するため、債権者に対し、相続放棄受理証明書を送付します。
相続放棄受理証明書は、相続放棄の申述を受理した家庭裁判所に対し、交付申請します。債権者数分の相続放棄受理証明書を申請し、届いたら、債権者へ送付して、相続放棄の申述が受理され、申述人に負債の支払の責任がないことを対外的に明らかにします。
5.ご依頼、ご相談、お問合せについて
以上の手続を、弁護士が申述人の代理人となって活動することができます。相続が始まったことを知った時から速やかに弁護士に相談することを検討すると良いでしょう。
弁護士法人萩原鹿児島シティ法律事務所では、相続放棄を行う方のための法律相談を承っております。
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