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民法8-第三者のためにする契約

「民法(債権関係)改正中間的論点整理」のコメント第8弾として、第三者のためにする契約について、コメントしてみたいと思います。

1. 論点箇所
「第26 第三者のためにする契約」のうち、「1 受益の意思表示を不要とする類型の創設等(民法537条)」(NBL953号付録83頁)

2. 同論点に関するコメント
検討されている類型化された第三者のためにする契約のうち、「債権取得型」においても、(1)受益者による受益の意思表示が必要であることを原則として定め、(2)要約者及び諾約者の契約(合意)によって、受益の意思表示がなくても受益者に債権を取得させることができる、とする方が望ましいと考える。
また、(3)「債権の取得を望まない受益者は、諾約者に対する意思表示により、これを放棄することができる」とする部分は、受益の意思表示を行使することができる期間を要約者及び諾約者間の契約(合意)によって定めることによって、代替することができると考えられるため、同(3)部分は、必ずしも唯一の新設規定案ではない、と考える。

3. 理由
第三者のためにする契約(現行民法537条)とは、一般に、契約から生ずる権利を契約当事者以外の第三者に直接に帰属させる内容を有する契約であると定義されています(民法(債権関係)部会資料19-2の59頁)。
よく例として挙げられるのは、生命保険契約です。
すなわち、被保険者(保険契約者)が要約者、保険会社が諾約者、生命保険金の受取人が受益者、という関係に立ちます。
また、一部の併存的債務引受が、この第三者のためにする契約に該当することがあることは、以前述べさせて頂きました(6月28日のブログ記事6月30日のブログ記事をご参照ください。)。

また、民法の教科書などではあまり挙げられていないように思われますが、結婚式披露宴出席者に贈られる引出物や、お通夜(お葬式)出席者に贈られる香典返しの中には、この第三者のためにする契約(またはこれに類似する無名契約)に該当する場合があるのではないか、と個人的に考えています。
つまり、結婚式披露宴出席者に与えられる引出物においては、以下のような関係に立ちます。
(1)要約者:結婚するカップル(夫婦)又は結婚式場。
(2)諾約者:引出物を発送するデパート(百貨店)など。
(3)受益者:結婚式披露宴出席者。
また、お通夜(お葬式)出席者に贈られる香典返しについては、以下のような関係に立ちます。
(1)要約者:喪主若しくは遺族又は葬祭場(葬儀会社)。
(2)諾約者:香典返しを発送するデパート(百貨店)など。
(3)受益者:お通夜(お葬式)出席者。

結婚式披露宴出席者に贈られる引出物や、お通夜(お葬式)出席者に贈られる香典返しの中には、出席者の選択によらずに、予め決められた品物が贈られることもあります。
他方で、上記(1)から(3)の各事例で想定しているのは、結婚式披露宴出席者やお通夜(お葬式)出席者に、引出物や香典返しとして、数多くの品物から選ぶことができるカタログがデパート(百貨店)によって作成され、そのカタログの中から引出物や香典返しを選ぶ場合(カタログギフト)です(便宜的に、まとめて「本件想定事例」といいます。)。
私も、これまで友人の結婚披露宴に出席して、引出物として選ぶことができる商品のカタログの中から、好きな商品を選び、住所、氏名、選択する商品番号などを葉書に記載し、個人情報保護のためのシールを同葉書に貼付してデパート(百貨店)に送付し、引出物を頂いたことがあります。
また、知人のご親族のお通夜に出席して、同様の方法で、香典返しを頂いたこともあります。
私がジムに行く時に背負って使うリュックサックや、自宅の玄関に置いて使用している靴棚ラックは、結婚式披露宴の引出物やお通夜の香典返しとして頂いたもので、とても重宝しています。

さて、このようなとても身近な例を考えたときに、果たして、検討されている「債権取得型」の第三者のためにする契約において、民法(債権法)改正検討委員会が提案(NBL904号411頁【3.2.16.02】)しているように、受益の意思表示を要せずに、受益者が、直ちに、諾約者に対する債権を取得するものとする、として問題はないのでしょうか。
結婚式披露宴出席者は結婚するカップル(夫婦)又は結婚式場に「ご祝儀」を、お通夜(お葬式)出席者は喪主若しくは遺族又は葬祭場(葬儀会社)に「香典」を支払いますので、本件想定事例が検討されている「負担付債権取得型」(NBL904号411頁、412頁【3.2.16.03】)に該当するならば、原則として受益(同意)の意思表示が必要とされており、問題はないと思われます。

しかし、本件想定事例の中には、検討されている「債権取得型」に該当する場合もあるものと思われます。
なぜなら、結婚式披露宴出席者が支払う「ご祝儀」や、お通夜(お葬式)出席者が支払う「香典」に、支払うことが期待される金額の傾向があるとしても、出席者が支払わなければならないとされる金額はないのであって、「ご祝儀」や「香典」を、引出物や香典返しを頂くための(付随的)負担と見ることはできない、と考えられるからです。
いずれの出席者も、結婚式披露宴又はお通夜(お葬式)に出席するにあたり、引出物や香典返しを頂くことを、必ずしも予め合意して出席するわけではないことも、理由として挙げられます。

また、民法(債権法)改正検討委員会の提案では、「債権の取得を望まない受益者は、諾約者に対する意思表示により、これを放棄することができる」としていますが、本件想定事例では、結婚式披露宴出席者又はお通夜(お葬式)出席者は、引出物や香典返しを頂かないのであれば、百貨店(デパート)が発行する葉書を百貨店(デパート)に送付しないで、契約期間(受益の意思表示を行使することが可能な期間)が経過することによって引出物や香典返しが頂けなくなる、ということが通常と思われます。
すなわち、「ご案内頂いた商品は、いずれも頂きません。」という通知(諾約者に対する意思表示)を、結婚式披露宴出席者又はお通夜(お葬式)出席者は、わざわざ百貨店(デパート)に対して出さないと思われます。
よって、本件想定事例が、「債権取得型」に該当するならば、検討されている改正規定案は、上記のような実務又は慣行に反することになるのではないでしょうか。

また、検討されている類型化された第三者のためにする契約の規定案は、「債権取得型」を除き、いずれも受益者による受益の意思表示(「同意」又は「援用」の用語が使用されています。)が必要とされており、「債権取得型」だけ受益の意思表示が不要とされていることに、不自然な印象を受けました。

また、私の個人的な実務感覚として、やはり、受益者による受益の意思表示を、第三者のためにする契約における権利発生要件として維持し、かつ、第三者のためにする契約の規定は、任意規定であると思われるため、受益者による受益の意思表示を不要とするのであれば、「契約自由の原則」と契約当事者のリスク判断に基づき、要約者及び諾約者の契約(合意)によって、受益の意思表示がなくても受益者に債権を取得させることができる、とする方が、実務に沿った立法となるのではないか、と思われます。

鹿児島シティ法律事務所 弁護士 萩原隆志