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民法4-併存的債務引受の成立要件

「民法(債権関係)改正中間的論点整理」のコメント第4弾として、併存的債務引受の要件(併存的債務引受を成立させるためには、どのようなことが必要か、ということです。)について、コメントしてみたいと思います。

1. 論点箇所
「第15 債務引受」のうち、「2 併存的債務引受」「(1) 併存的債務引受の要件」(NBL953号付録54頁)

2. 同論点に関するコメント
併存的債務引受の要件を定める規定を民法に設けることについて、積極的な必要性を見出すことができない。
理論的に、(1)債務者及び引受人の合意がある場合や、(2)債権者及び引受人の合意がある場合に、併存的債務引受ができるとしても、債権者、債務者及び引受人の三者間の合意を得た上で併存的債務引受を成立させることが、原則としてより実践的であり、取引の安全を確保する上でも望ましい。
また、第三者のためにする契約では、受益者による受益の意思表示が必要であると考えられ、併存的債務引受が第三者のためにする契約となる場合があることから、(1)債務者及び引受人の合意がある場合でも、債権者の承諾(合意)が必要と考えることが、より整合的と考えられる。
したがって、やはり、(1)(2)を併存的債務引受の要件として民法に規定することに、積極的な必要性を見出すことができない。

3.理由
「2. 同論点に関するコメント」にある(1)(2)の場合というのは、私が大学法学部で民法を学んでいた時から、併存的債務引受が成立するための要件として教わっていたことです。
いずれも昔からの判例の裏付けがあり、これを条文化しようとする考え方もわからなくはないです。

しかし、(1)や(2)の合意だけで、併存的債務引受が成立し、例えば債務整理・任意整理の究極的な目標である生活再建などの目的が達せられるとは考えられず、実務家として、不自然な感覚を抱かざるを得ません。

例えば、6月28日のブログ記事で書いた、債務整理・任意整理で活用する債務引受においては、債権者の同意を得た上での債務引受、すなわち、債務者、引受人、債権者たる金融機関との間での合意書(和解契約書)を作成することが実践的であると考えられ、(1)債務者と引受人との合意で併存的債務引受が成立し、これで事足りる、とすることはできません。
もちろん、(1)債務者と引受人との合意で併存的債務引受を成立させても、実質的な問題が生じない場合もあると考えられます。

また、別の機会に触れたいと思いますが、第三者のためにする契約(NBL953号付録83頁)では、やはり、受益者による受益の意思表示が必要であると思われ、「受益者による受益の意思表示」と、「併存的債務引受における債権者の合意」が同時に行われることもあることから、(1)の場合でも、債権者の承諾が必要な場合があると考えるべきです。

さらに、(2)債権者及び引受人の合意がある場合に、併存的債務引受ができることが多くあるとしても、それだけでは問題が生じる(取引の安全を害する)場合があると思われます。
例えば、貸金業者に対する過払金返還請求権を持つ債権者(「過払金債権者」)がいるとして、債務者(同貸金業者)が過払金を返還することができず、同貸金業者を再生させようとするスポンサーが、過払金債権者全員に対して、同貸金業者が負っている金銭消費貸借契約に基づく債務(過払金返還債務を含みます。)を併存的に引き受けたとします。

まだ過払金の返還請求をしていない(取引履歴を取り寄せていない)過払金債権者は、自分が持っている過払金返還請求権の金額を知るために、取引履歴を取り寄せようとするでしょう。
スポンサーが上記併存的債務引受をしたのであれば、過払金返還債務のみならず、貸金業者が貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として、信義則上、保存している業務帳簿(貸金業法19条)に基づいて取引履歴を開示すべきとされる、取引履歴開示義務(最高裁平成17年7月19日判決民集59巻6号1783頁)をも引き受けることになると考えられますが、スポンサーが取引履歴開示義務まで履行するためには、債務者たる貸金業者から、業務帳簿の原本、写し、又は電磁的記録を受け取ったり、取引履歴の写しや電磁的記録を受け取ったりしない限り、取引履歴開示義務を履行することはできません。
また、取引履歴開示義務は引き受けないとしても、返還すべき過払金の金額を把握するために、また、支払後の求償権確保のために、スポンサーは、いくら過払金を返還すべきかについて、債務者の同意を得ようとするでしょう。
要するに、債務者の合意がないと、引受人が履行できない債務(上記の例では、取引履歴開示義務や過払金返還債務)も存在すると考えられ、(2)債権者及び引受人の合意がある場合を、併存的債務引受の要件として定めることに、違和感を感じます(もちろん、(2)債権者及び引受人の合意のみによる併存的債務引受を成立させてもよいと考えられる場合もあります。)。

以上のように、契約上の地位の譲渡(移転)を含め、併存的債務引受は、「契約自由の原則」が大きくはたらく場面であると思われるため、(1)(2)の場合だけを併存的債務引受の要件として民法に規定することは、問題がないとはいえないと思われます。

鹿児島シティ法律事務所 弁護士 萩原隆志