民法10-連帯債務・組合契約・事業者概念(連帯債務・JV協定書を前提に(2))
「民法(債権関係)改正中間的論点整理」に関連して、以前コメント差し上げた連帯債務とJV協定書、組合契約について(6月19日のブログ記事をご参照ください。便宜的に「本論点」といいます。)、補足したいと思います。
1. 論点箇所
連帯債務の成立要件のうち、「第11 多数当事者の債権及び債務」「1 債務者が複数の場合」「(2)連帯債務」「ア 要件」「(イ)商法511条第1項の一般ルール化」の部分(NBL953号付録35頁)、「第53 組合」「2 組合の財産関係」(同付録172頁)、「第62 消費者・事業者に関する規定」、「3事業者に関する特則」、「(3)事業者が行う一定の事業について適用される特則⑤」(同付録187頁)。
2. コメントの補足
「経済事業」の概念を民法に定める必要性があるのか、慎重な検証を行うべきである。
事業者概念のうち、「経済事業」の概念を民法に設け、組合契約における組合員が連帯債務を負うことを定める規定を民法に置くとしても、同規定の適用があるのは、会社(会社法2条1号)のように、積極的に経済的利益を上げることを目的とする経済事業(営利的経済事業)を行う事業者だけが組合の組合員となり、かつ、営利的経済事業を目的として組合の事業が行われる場合に限定するべきと考える。
3. 理由
本論点について、法制審議会民法(債権関係)部会は、(1)組合員の全員が事業者であって、(2)事業者概念のうち、「経済事業」、すなわち、「反復継続する事業であって収支が相償うことを目的として行われているもの」を目的として組合の事業が行われる場合は、組合員が組合の債権者に対して負う債務を連帯債務とすることを検討しています。
「収支が相償うことを目的として」ということの趣旨は、民法(債権法)改正検討委員会の説明によれば、「営業の概念のように積極的に経済的利益を上げることを目的として事業を行う場合と、積極的な利益を上げることまでは目指さないが、少なくとも損失を出さないことを目的として事業を行う場合の双方を含むというものである」とされています(NBL904号93頁)。
私が念頭に置いている「数人が事業に関する一個の行為によって債務を負担した場合」というのは、最高裁平成10年4月14日判決民集52巻3号813頁や同最判のリーディングケースである、東京地裁平成9年2月27日判決判例タイムズ944号243頁のように、(株式)会社、すなわち、「営利を目的として事業を行う事業者」が、「営利的な事業」に関する一個の行為によって債務を負担した場合です。
また、民法(債権法)改正検討委員会が想定している「経済事業」とは、「株式会社や個人商人という商法が商人性を認めてきた事業者の類型に加えて、協同組合、専門的職業活動を行う事業者のほか、公益法人や一般法人その他の事業者も、その行う事業全部または事業の一部が上記の意味での経済事業に該当する限りで上記の各規定の適用を受けることになる。」(NBL904号93頁)としており、「事業者」のうち、かなりの部分を占める事業者がこの「経済事業」を行う事業者に該当すると思われ、果たして、「経済事業」概念を設けることに、どれだけの意味があるのか、詳しい検証が必要であると思います。
なぜなら、どこまでが「積極的に経済的利益を上げる」といえるのか明らかではありませんし(どの事業者も積極的に経済的利益を上げることを目的としている、といえるかもしれません。)、どんな事業者であっても、損失を出すことを一般的、恒常的に認める事業者はいないと思われ、どの事業者も、「少なくとも損失を出さないことを目的として事業を行」っているからです。
そして、「経済事業」を目的として組合の事業が行われる場合の組合の負う債務について、組合員が連帯債務を負うか否かについて、商法511条1項や最高裁平成10年4月14日判決民集52巻3号813頁、東京地裁平成9年2月27日判決判例タイムズ944号243頁などからは明らかではなく(これらの判例、裁判例における「組合の事業」とは、営利的(経済)事業を意味すると思われます。)、「経済事業」を目的として組合の事業が行われる場合の組合の負う債務について、組合員が原則として連帯債務を負うとする規定を民法に定めるためには、同規定により、どのような影響があるのか、詳しい検証が必要であると考えます。
商法511条1項や上記判例、裁判例からは、営利的経済事業を行う事業者だけが組合の組合員となり、かつ、営利的経済事業を目的として組合の事業が行われる場合に限り、組合の債務について、組合員が連帯債務を負うことが認められると考えます。
鹿児島シティ法律事務所 弁護士 萩原隆志