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民法1-連帯債務・JV協定書を前提に

先日ご紹介した「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」(本ブログでは、「民法(債権関係)改正中間的論点整理」といいます。)のコメント第1弾として、連帯債務の要件について、コメントしてみたいと思います。

1.  論点箇所
連帯債務の成立要件のうち、「第11 多数当事者の債権及び債務」「1 債務者が複数の場合」「(2)連帯債務」「ア 要件」「(イ)商法511条第1項の一般ルール化」の部分(NBL953号付録35頁)。

2. 同論点に関するコメント
民事の一般ルールとして、数人が一個の行為によって債務を負担した場合には広く連帯債務の成立を認めるとするべきではなく、事業に関するものに限定するべきと考えます。

3. 理由
連帯債務は、私が弁護士として仕事をしていて、時々出てくる概念ですが(過払金返還請求訴訟の一部の類型で出てきましたね。)、商法511条1項(数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担する。)の規定を民事の規定として一般ルール化しようとする背景には、商法511条1項の規定については、取引の安全を図る必要性は商取引のみならず民事取引にも妥当することから、民事の一般ルールとすべきであるとの見解があるそうです(民法部会資料8-2の7頁)。
しかし、商法511条1項を民事の一般ルールとするには相当ではなく、事業に関するものに限り、民事の一般ルールとするべきと考えます。

(1) 素朴な疑問
この連帯債務の具体例として、私が学生のころに勉強したのは、「サークルの懇親会を居酒屋で開催した場合に、居酒屋に支払う飲食代は、懇親会に参加したサークル部員は、飲食代について連帯債務を負う。したがって、飲食代を支払わなかった部員の飲食代金分は、他の部員が分割などして支払わなければならない。」というものです。
常識的に考えて、サークルの懇親会や同窓会での飲食代を連帯債務とし、自己負担分を支払わなかった参加者の負担分を、他の参加者が連帯して支払う、ということには素直にうなずけます。
しかし、私が近時よく参加する、友人の結婚式の2次会などはどうでしょうか。
同じ懇親会でも、参加者は様々な出身母体(新郎・新婦の小学校、中学校、高校又は大学の友人、職場の同僚、上司又は後輩、親族など)から構成されており、2次会に出席しても、全く会話もせず、その場限りで別れてしまう、という方もいます。
そのような方が何らかの理由で会費を支払わなかった場合に、他の参加者が、会費を支払わなかった方の会費を負担しなければならないのでしょうか。
会費を負担しなければならないとすることに、違和感を感じる方はいると思われ、商法511条1項をそのまま民事の一般ルールとすることは、社会学的に問題がないとはいえないと思われます。

(2) 事業に関する債務負担行為であれば、認められる
これに対して、事業に関する債務負担行為であれば、明治時代以来、長く商法511条1項が複数名の者の商行為による債務負担行為に適用されてきた実績もあり、問題はないと考えます。
比較的近時の判例でも、「共同企業体の構成員に会社がある場合、共同企業体がその事業のために第三者に対して負担した債務につき構成員が負う債務は、商法511条1項により連帯債務となる。」とする、最高裁平成10年4月14日判決民集52巻3号813頁があり、同判例(この判例のリーディングケースとして、東京地裁平成9年2月27日判決判例タイムズ944号243頁があります。)と整合的な改正になると考えられます。

上記判例にて登場する共同企業体とは、いわゆるジョイント・ベンチャー(JV)と呼ばれるもので、いくつかの形態がありますが、主たるものは民法上の組合契約(民法667条以下)の形態によって結成されていると理解しています。
ジョイント・ベンチャーの代表例である、特定建設工事共同企業体の構成員が締結する組合契約である、「特定建設工事共同企業体協定書(甲型)」においても、ジョイント・ベンチャーを結成する建設会社が、「建設工事の請負契約の履行及び下請契約その他の建設工事の実施に伴い当企業体が負担する債務の履行に関し、連帯して責任を負うものとする。」(同協定書第10条)とされており、広く普及していると考えられます。

民法上の組合の構成員は、組合が負う債務について、「損失分担の割合」により、または平等の割合で責任を負うことが原則(民法675条)ですが、①組合の構成員が会社であり、②組合の事業のために第三者に負担した債務につき、組合の構成員は、同債務につき連帯債務を負うとされているのです。
このように、民法上の組合契約において、組合の構成員が原則として平等の割合で責任を負うにとどまっている(=連帯債務を負わない)こととのバランスからも、数人の者が一人のためまたは全員のためとなる行為によって負担した債務につき、連帯債務が成立するとする場面は、限定的に考えるべきと思われます。

建設工事に限定されますが、上記のような実態もあることに鑑み、事業者概念を民法に設けることとあわせて、数人が事業に関する一個の行為によって債務を負担した場合には、連帯債務の成立を認めて構わない、と考えます。

鹿児島シティ法律事務所 弁護士 萩原隆志