民法9-不動産賃貸借契約・保証債務(2)
「民法(債権関係)改正中間的論点整理」に関連して、以前コメント差し上げた不動産(建物)賃貸借契約と同契約更新後の保証債務の存続について(6月22日のブログ記事をご参照ください。便宜的に「本論点」といいます。)、補足したいと思います。
1. 論点箇所
「第12 保証債務」のうち、「7 根保証」「(1) 規定の適用範囲の拡大」(NBL953号付録44頁)、「第45 賃貸借」「3 賃貸借と第三者との関係」「(4) 敷金返還債務の承継」(同付録136頁)及び「第60 継続的契約」「2 継続的契約の解消の場面に関する規定」「(2) 期間の定めのある継続的契約の終了」(同付録181頁)。
2. コメントの補足
不動産賃貸借契約における保証債務を、貸金等根保証契約に関する保証人保護の規定(民法465条の2から465条の5までの規定)の対象とするか否かを検討するにあたっては、建物賃貸借契約、土地賃貸借契約、定期借家契約、定期借地契約、事業用借地契約などの不動産賃貸借契約の各類型において、保証人保護の規定の対象とすることによって、賃貸人に過大な負担(契約締結時の説明義務及び保証債務範囲の限定による経済的負担、他の担保を確保する必要が発生するなど)が発生しないか、慎重な検討を行うべきである。
また、不動産賃貸借契約における保証債務を、貸金等根保証契約に関する保証人保護の規定の対象としても、極度額の定めを保証契約締結時に定めなかった場合には、同保護規定の適用がないことになり(現行民法465条の2第2項)、賃貸借契約更新後の保証債務の範囲について、紛争が発生する余地を残すことになると思われる。
そして、期間の定めのある継続的契約が更新されたときの契約条件について定める規定が民法に新設されるか否か、必ずしも明らかではないことから、現行民法619条2項本文の改正の要否も同時に検討するべきである。
3. 理由
本論点について、法制審議会民法(債権関係)部会では、不動産賃貸借契約における保証債務を、貸金等根保証契約に関する保証人保護の規定(民法465条の2から465条の5までの規定)の対象とするか否かという方向で検討されているようです(同部会資料8-2第2の8(同部会資料65頁))。
貸金等根保証契約に関する保証人保護の規定の対象とするとしても、その必要性、対象とした場合の賃貸人に対する経済上、契約手続上の負担等は、賃貸借契約の類型毎に異なるものと思われます(なお、私は、建物賃貸借契約(アパートなどの消費者を賃借人とする居住用建物を念頭に置いています。)の保証人の責任は、貸金等根保証契約に関する保証人保護の規定の対象とする必要はないのではないか、と考えています。)。
したがって、法制審議会民法(債権関係)部会におかれては、賃貸業界の皆様に詳細なヒアリングを行うなどして、立法の妥当性を慎重に検討して頂きたいと考えています。
また、仮に不動産賃貸借契約における保証債務を、貸金等根保証契約に関する保証人保護の規定(民法465条の2から465条の5までの規定)の対象としたとしても、極度額の定めを保証契約において定めなかった場合、同保証人保護の規定は効力が発生しないため(現行民法465条の2第2項)、賃貸借契約更新後、保証人が責任を負うか否かについて、紛争が発生する余地があります。
民法(債権法)改正検討委員会は、期間の定めのある継続的契約が更新されたときの契約条件について定める規定を民法に新設することを提案されています(NBL904号417頁【3.2.16.14】)が、これが様々な契約類型のある継続的契約に共通する一般原則規定として認められるか、必ずしも明らかではありません。
よって、現行民法619条2項本文の改正の要否についても、同時に検討されるべきと考えます。
鹿児島シティ法律事務所 弁護士 萩原隆志