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不安防止条例改正(平成29年7月)について

弁護士の山口学です。はじめての投稿になります。
今日は鹿児島県の不安防止条例の改正について取り上げます。

最初に、「不安防止条例」は略称であって、正式名称は、「公衆に不安等を覚えさせる行為の防止に関する条例」です(以下では、「不安防止条例」と言います。)。
これは鹿児島県が定めた条例であり、鹿児島県内においてのみ適用される法律と考えて頂くとわかりやすいと思います。

「不安防止条例」は、様々な迷惑行為を禁止するものですが、主に盗撮行為やつきまとい行為を禁止し、違反した方を処罰するものです。
この「不安防止条例」がこのたび改正され、今年(平成29年)7月1日から施行、すなわち適用されることになります。

改正後の条文は鹿児島県警察本部(以下、「鹿児島県警」といいます。)のホームページに掲載されています。
https://www.pref.kagoshima.jp/ja09/police/documents/58266_20170323134834-1.pdf
改正のポイントについは、同じく鹿児島県警のホームページで紹介されています。
https://www.pref.kagoshima.jp/ja09/police/documents/58266_20170323134754-1.pdf

改正のポイントは主に3つあるとされています。

第1点目は、盗撮が禁止される場所の拡充です。
現在の不安防止条例の条文においては、「道路,公園,広場,駅,興行場,飲食店その他の公共の場所(以下「公共の場所」という。)又は汽車,電車,乗合自動車,船舶,飛行機その他の公共の乗物」(改正前の条文第2条)におけるのぞきや盗撮行為が禁止されているに過ぎず、これを反対に解釈すれば、それ以外の場所での盗撮行為は、条例では規制されていませんでした。
例えば、公衆浴場でののぞきや盗撮行為は、不安防止条例での対象ではありませんでした(ただし、軽犯罪法違反にはなりえます)。

しかし改正後の不安防止条例では、新たに、
①通常衣服をつけない場所におけるのぞきや盗撮行為、
②特定かつ多数の者が利用する場所における盗撮行為、
の2つが新たに規制の対象になりました。

①については、例えば公衆浴場での盗撮行為が禁止されます。
②については、「特定かつ多数の者が利用する場所」の意味が問題になりますが、鹿児島県警の説明によると、例えば、「集会場、会社の事務所、教室、パーティー会場、貸切バス」等が例示されています。

このように、禁止されるのぞきや盗撮行為の対象が拡大したことになります。

第2点目は、つきまとい行為等の規制の拡充や類型化です。
詳細は上記で挙げた改正後の不安防止条例の条文第4条を読んで頂ければと思いますが、禁止されるつきまとい行為が拡充、類型化されています。
この改正の目的は、昨今急増しているストーカー行為の規制を強化することにあるとされています。

第3点目は、常習者への罰則の強化です。
かつて、常習的に盗撮行為などの迷惑行為をしてしまった人の刑罰は、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」とされていました。
これに対して改正後は、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」とされ、罰金額が引き上げられています。
したがって、常習的に盗撮行為などをした方については、より重い刑罰が科されることになります。

また大きくは取り上げられていませんが、改正後の不安防止条例の第2条の2第1項(3)は、「写真機その他の撮影する機能を有する機器(次項第2号において「写真機等」という。)を使用して,衣服等で覆われている人の下着又は身体の映像を記録し,又は記録しようとすること」とあります。
すなわち、盗撮行為はもちろん、盗撮しようとして、カメラ等を向ける行為(下線部)も処罰の対象とされることが明確になりました。
盗撮目的でカメラ等を向ける行為そのものが処罰の対象になるかは、改正前の不安防止条例の条文からは、必ずしも明確ではありませんでした。
しかし改正後の不安防止条例では、盗撮目的でカメラを向けただけで、処罰されることになります。

何らかの理由により、盗撮行為をしてしまい、不安防止条例違反の罪で警察に摘発された方もいらっしゃると思います。
その際重要となるのは、被害者の方に謝罪し、賠償をするなどして、誠意を尽くすことに尽きると言えます。
しかし、盗撮をしてしまった方が被害者の連絡先を知っていることはなく、また知っていたとしても、直接の接触を拒絶されることが多いと考えられます。
他方で、被害者の方の中には、弁護士を通じてであれば加害者からの謝罪や示談に応じるという方も少なくありません。そして当事務所の経験でも、弁護人が間に入ることによって、被害者の方と示談が成立し、刑罰を受けることを回避できた方もいらっしゃいます。

もちろん、処罰するかどうかは検察庁や裁判所が判断することであり、被害者の方と示談をすれば必ず処罰を免れるとは断言できません。しかし、盗撮行為等の性犯罪においては、被害者の感情が尊重される傾向があることから、被害者の方と示談や賠償が出来ずに、処罰を免れた方はほぼいないように思われます。

したがいまして、何らかの理由によって盗撮行為をしてしまった方は、速やかに弁護士に相談されることをおすすめします。

反対に、盗撮行為などの迷惑行為の被害に遭われ、加害者の弁護人ないし代理人と称する弁護士から、示談を持ち掛けられ、どうすればよいか迷っている方もいらっしゃると思います。
特に難しいのは、示談金額です。インターネット等では様々な情報があふれていますが、適切な示談金額は、個別具体的な事件の内容によって異なるものです。一律に10万円、などのように、定額ということは決してありません。
当事務所では盗撮の被害に遭われた方からの相談を受けた場合、被害の具体的状況、被害感情及び類似事例を参照するなどした上で、被害に遭われた方にとって適切と考えられる示談金を助言することもできますので、遠慮なくご相談下さい。

今回は不安防止条例の改正について取り上げました。