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民法6-契約上の地位の譲渡・移転(1)

「民法(債権関係)改正中間的論点整理」のコメント第6弾として、契約上の地位の譲渡(契約上の地位の移転)について、コメントしてみたいと思います。

1. 論点箇所
「第16 契約上の地位の移転(譲渡)」のうち、「1 総論(契約上の地位の移転(譲渡)に関する規定の要否)」(NBL953号付録56頁)

2. 同論点に関するコメント
契約上の地位の譲渡の意義を定める規定を設けることにつき、賛成する(民法(債権法)改正検討委員会による「債権法改正の基本方針」【3.1.4.14】案(NBL904号227頁)に賛成する。)。
ただし、契約上の地位の譲渡の意義を定める規定の名称、及び同規定が置かれる節の名称は、それぞれ、「契約上の地位の譲渡の意義」、「契約上の地位の譲渡」がよいのではないか、と思われる。

3. 理由
契約上の地位の譲渡(契約上の地位の移転)とは、契約を締結することにより発生する契約当事者としての包括的な地位を、合意によって、第三者に移転させることをいいます。
例えば、不動産(土地建物)を所有し、これを賃貸している不動産所有者(オーナー)が、当該不動産を譲渡(売買、贈与など)した場合、当該不動産を譲り受けた新不動産所有者が、土地建物賃貸借契約の新当事者となり(賃貸人としての契約上の地位を譲り受けます。)、旧不動産所有者は、賃貸人たる地位を失います(賃貸人としての契約上の地位が、新所有者に移転します。)。
これは、「賃貸人としての契約上の地位」が移転する典型例として、実務上もよく発生する例であると思います。
個人的には、契約上の地位の譲渡は、債権譲渡、債務引受、契約に伴い発生する付随的な債権債務の移転、取消権・解除権の移転によって構成されている、と考えています。

契約上の地位の譲渡(移転)は、契約上の地位の譲渡人及び譲受人の合意並びに契約の相手方の合意又は承諾によって行うことができることについて、私も異論がなく、契約の性質上、相手方の承諾を要しないことがあることについてまで言及する、「契約上の地位の譲渡の意義」を定める規定を民法に定めることにつき、問題はないと考えます。
ただし、実際は、契約の相手方の承諾を不要とするのであれば、契約書によって、契約上の地位の譲渡を行うためには相手方の承諾を要しないことを予め定めることが、契約実務としては実践的であると思われます。

また、細かいことであり、好き嫌いの問題にとどまるかもしれませんが、契約上の地位の譲渡の意義を定める規定の名称、及び同規定が置かれる節の名称を含め、用語は、「契約上の地位の譲渡」で統一されてはどうか、と個人的に思っております。

民法の主要な教科書を見ても、「契約上の地位の譲渡」、「契約上の地位の移転」、「契約譲渡」、「契約引受」など、用語が統一されていませんが、民法という実際の法律において、複数の用語を用いることは、あまり好ましくないのではないか、と考えています。

ではどれにするか、ということになると思われますが、以下のような理由から、「契約上の地位の譲渡」がよいのではないか、と考えています。
(1)現行民法との整合性。
「契約上の地位の譲渡」に整合的な規定として、以下の規定があります。
・125条5号(法定追認事由(取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡))
・178条(動産に関する物権の譲渡)
・182条(占有権の譲渡)
・272条(永小作権の譲渡)
・314条(賃借権の譲渡と先取特権)
・466条以下(債権の譲渡)
・612条(賃借権の譲渡)
・625条(使用者の権利の譲渡)

「契約上の地位の移転」に整合的な規定として、以下の規定があります。
・176条(物権の設定及び移転)
・184条(指図による占有移転)
・408条、409条(選択債権における選択権の移転)
・555条(売買契約。財産権を相手方に移転。)
・561条以下(他人物売買。)
・586条(交換契約。金銭の所有権以外の財産権を移転、などと規定。)
・696条(和解契約。争いの目的である権利が当事者の一方に移転、などとする。)

こうやって見るとどちらが適切か、甲乙つけがたい感がありますが、「譲渡」の方が、「移転」よりも、契約当事者の合意によって行われることをより忠実に表現しているように思われます。
また、「移転」には、外国法人の事務所の移転の登記に関する規定(民法37条6項)があり、「契約上の地位の移転」としてよいものか、と思わせる感がないではないと思われます。

(2)会社法との整合性。
会社法においても、「株式の譲渡(株式譲渡)」、「新株予約権の譲渡」、「事業譲渡(旧営業譲渡)」、「持分の譲渡」など、「契約上の地位の譲渡」と用語面及び内容面ともに整合的な立法が行われています。

(3)民法(債権法)改正検討委員会による「債権法改正の基本方針」においても、具体的指針案の中で、「契約上の地位の移転」の用語が使用されていない。

実際に立法される場面で、少しでも立法担当者の方に配慮頂ければ、と思っております。

鹿児島シティ法律事務所 弁護士 萩原隆志