弁護士法人萩原 鹿児島シティ法律事務所のブログ

コラム「悪いことをしたら必ず逮捕されるのか?」


弁護士の山口学です。
今日は相撲界の暴力事件を素材に、「逮捕」について取り上げます。

平成29年11月現在、相撲界における暴力事件が世の中を騒がせています。
事実関係は錯綜していますが、加害者とされる力士は、被害者とされる力士に暴行したこと自体は認めているようです。

このような報道の中で、「どうして加害者は逮捕されないのか?」と思われる方も少なくないと思います。
現に報道の中では、「一般人なら逮捕される」という論調が一部であり、また、そのようなコメントをする弁護士もいます。
そうなると、「加害者が横綱だから逮捕されないのか?」、「特別扱いなのか?」と考えられる方もいるかもしれません。

この前提には、「悪いこと(犯罪)をしたら必ず逮捕される」という認識があるのだと思います。
しかし、法律上、そうではありません。

犯罪の捜査や訴訟の手続を定めた法律は、「刑事訴訟法」という法律です。
刑事訴訟法199条1項は、逮捕の要件として、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」が必要としています。

また、最高裁判所が定めた刑事訴訟規則143条の3において、逮捕には、「逮捕の必要性」が求められ、具体的には、「逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞(おそれ)がなく、かつ、罪証を隠滅する虞(おそれ)がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるとき」は、逮捕は認められません。

「逮捕の必要性」の主なものは、「逃亡のおそれ」と「罪証を隠滅するおそれ」の2つです。
「逃亡のおそれ」は、逮捕という身体拘束をしなければ、逃げる可能性があること、と理解して頂ければよいと思います。
「罪証を隠滅」は難しい表現ですが、要は「証拠」を破壊したり、隠したりすることです。「証拠」には、証人も含まれますから、例えば加害者が、被害者や目撃者に働きかけて、自己に不利なことを言わないよう口裏をあわせることも含みます。

さらに、現行犯逮捕を除いては、逮捕にあたって、裁判官の審査が必要です。
これは最高法規である憲法33条が認めている、重要な原理です。
この規定は、歴史上、権力者による身体拘束が濫用されてきたことに鑑み、定められているのです。
すなわち、以上で説明した逮捕の要件があるかないかを判断するのは、警察や検察などの捜査機関ではなく、裁判官なのです。
警察や検察が加害者を逮捕したいからと言って、必ずしも逮捕できるわけではありません。

以上は専門的な説明で分かりにくいかもしれませんが、簡単に言うと、
「犯罪をしたからといって必ずしも逮捕されるわけではない」
ということになります。この点をご理解頂ければと思います。

そして、「犯罪をしたからといって必ずしも逮捕されるわけではない」という点は統計にも表れています。
例えば、平成28年の「犯罪白書」によれば、事件全体33万3923人のうち、逮捕されていない人は20万7832人と逮捕されていない数の方が圧倒的に多いことが理解できます。
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/63/nfm/n63_2_2_2_2_0.html

実際、鹿児島においても、過失の交通事故事案などを中心に、加害者が逮捕されていないケースは多くあります。

それでは、今回の相撲界における暴力事件はどうでしょうか。
前述した、「逮捕の理由」の「逮捕の必要性」の観点からみていきたいと思います。

まず、「逮捕の理由」ですが、被害者や目撃者の話もあり、また加害者自身も暴力をふるったこと自体は認めていることから、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」、すなわち、「逮捕の理由」はあると言えます。

次に、「逮捕の必要性」ですが、ここでは「逃亡のおそれ」と「罪証を隠滅するおそれ」の2つの観点からみていきます。
まず、「逃亡のおそれ」ですが、加害者は相撲界の横綱=著名人であり、逃亡することはほぼ不可能です。また報道によれば、警察からの事情聴取に応じ、捜査に協力しています。
したがって、「逃亡のおそれ」はないと考えられます。

問題になるのは、「罪証を隠滅するおそれ」、要は証拠を破壊したり、壊したりする可能性があるか、という点です。
今回の暴力事件は、防犯カメラ映像などの客観的な証拠がないようであり、そうなると、被害者の話や同席していた人の話が証拠になります。

相撲界の厳しい上下関係の激しい中で、加害者は横綱=現役力士の最高峰であることから、被害者に圧力をかけ、また、同席していた力士と口裏をあわせることは、抽象的には不可能とはいえないと考えられます。
また、あくまで報道ベースですが、暴行の態様や程度について、被害者と加害者で言い分が異なっているようでもあり、そうなると、加害者側が自己の責任を軽くするために、口裏合わせをする動機もあります。

しかし、事件がこれだけ社会的に注目され、関係者は24時間報道機関に追われている中で、圧力をかけたり、口裏合わせをすることは困難であるともいえます。
また、被害者が所属する部屋の親方の姿勢は、強固であり、加害者側が被害者に接触することも困難であることから、「罪証隠滅のおそれ」があるとは言い切れないように考えられます。

評価は分かれるところですが、今回の相撲界における暴力事件で、加害者が逮捕に至らないのは、決して不自然ではないと考えられます。
仮に今後、加害者が逮捕に至ることがあれば、加害者側が周辺に口裏合わせをするなどの事実関係が明らかになり、逮捕しなければ、真相の究明が困難になるような場合だと思われます。

犯罪をしないことが最も大切ですが、何らかの理由で犯罪をしてしまうことはありえます。
タイムマシーンのない現在、過去を変えることはできません。
しかし、事後の対応を適切に行うことによって、不利益を最小限にすることもできます。
例えば、早期に被害者の方に謝罪をし、賠償や示談をすることで、逮捕を免れることもあります。
その際、加害者が直接被害者に謝罪や賠償や示談をすることは難しいのですが、弁護士を通じてであれば、それが可能なこともあります。

逆に、警察からの再三の呼び出しを無視してしまったせいで、軽微な事件でも、逮捕に至ったケースを聞くことがあります。
よくあるのが、軽微な交通違反につき、警察からの再三の呼び出しを無視して、逮捕に至ったケースです。

このように、事後の対応如何によって、逮捕に至らなかったケースもあれば、逮捕に至ったケースもあるのです。

逮捕されれば、自由を奪われ、社会生活を行うことは不可能になります。
社会人の方は仕事をすることは出来なくなります。また、学生の方は、学校に行けなくなります。
逮捕されれば、家族や友人とも、自由に会えなくなります。
鹿児島の場合、比較的軽微な事件でも、地元の新聞やテレビで報道されることもあります。
このように逮捕によって生ずる不利益は重大です。
しかも、現在の法律上、逮捕に対する異議申立ては認められないとされています。
(逮捕に続く勾留については、異議申立てを認める仕組みになっています。)
それゆえに、法律は、逮捕の要件を厳格に定め、また、裁判官による審査も必要としているのです。
(ただし、法律が厳格に運用されているかについては、評価が分かれています。)

何らかの理由で犯罪をしてしまった方は、弁護士に相談されることをおすすめします。

今日は、相撲界の暴力事件を素材に、刑事手続における逮捕について取り上げました。