弁護士法人萩原 鹿児島シティ法律事務所のブログ

弁護士 山口 学のブログ

コラム「悪いことをしたら必ず逮捕されるのか?」

2017年11月29日

弁護士の山口学です。
今日は相撲界の暴力事件を素材に、「逮捕」について取り上げます。

平成29年11月現在、相撲界における暴力事件が世の中を騒がせています。
事実関係は錯綜していますが、加害者とされる力士は、被害者とされる力士に暴行したこと自体は認めているようです。

このような報道の中で、「どうして加害者は逮捕されないのか?」と思われる方も少なくないと思います。
現に報道の中では、「一般人なら逮捕される」という論調が一部であり、また、そのようなコメントをする弁護士もいます。
そうなると、「加害者が横綱だから逮捕されないのか?」、「特別扱いなのか?」と考えられる方もいるかもしれません。

この前提には、「悪いこと(犯罪)をしたら必ず逮捕される」という認識があるのだと思います。
しかし、法律上、そうではありません。

犯罪の捜査や訴訟の手続を定めた法律は、「刑事訴訟法」という法律です。
刑事訴訟法199条1項は、逮捕の要件として、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」が必要としています。

また、最高裁判所が定めた刑事訴訟規則143条の3において、逮捕には、「逮捕の必要性」が求められ、具体的には、「逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞(おそれ)がなく、かつ、罪証を隠滅する虞(おそれ)がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるとき」は、逮捕は認められません。

「逮捕の必要性」の主なものは、「逃亡のおそれ」と「罪証を隠滅するおそれ」の2つです。
「逃亡のおそれ」は、逮捕という身体拘束をしなければ、逃げる可能性があること、と理解して頂ければよいと思います。
「罪証を隠滅」は難しい表現ですが、要は「証拠」を破壊したり、隠したりすることです。「証拠」には、証人も含まれますから、例えば加害者が、被害者や目撃者に働きかけて、自己に不利なことを言わないよう口裏をあわせることも含みます。

さらに、現行犯逮捕を除いては、逮捕にあたって、裁判官の審査が必要です。
これは最高法規である憲法33条が認めている、重要な原理です。
この規定は、歴史上、権力者による身体拘束が濫用されてきたことに鑑み、定められているのです。
すなわち、以上で説明した逮捕の要件があるかないかを判断するのは、警察や検察などの捜査機関ではなく、裁判官なのです。
警察や検察が加害者を逮捕したいからと言って、必ずしも逮捕できるわけではありません。

以上は専門的な説明で分かりにくいかもしれませんが、簡単に言うと、
「犯罪をしたからといって必ずしも逮捕されるわけではない」
ということになります。この点をご理解頂ければと思います。

そして、「犯罪をしたからといって必ずしも逮捕されるわけではない」という点は統計にも表れています。
例えば、平成28年の「犯罪白書」によれば、事件全体33万3923人のうち、逮捕されていない人は20万7832人と逮捕されていない数の方が圧倒的に多いことが理解できます。
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/63/nfm/n63_2_2_2_2_0.html

実際、鹿児島においても、過失の交通事故事案などを中心に、加害者が逮捕されていないケースは多くあります。

それでは、今回の相撲界における暴力事件はどうでしょうか。
前述した、「逮捕の理由」の「逮捕の必要性」の観点からみていきたいと思います。

まず、「逮捕の理由」ですが、被害者や目撃者の話もあり、また加害者自身も暴力をふるったこと自体は認めていることから、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」、すなわち、「逮捕の理由」はあると言えます。

次に、「逮捕の必要性」ですが、ここでは「逃亡のおそれ」と「罪証を隠滅するおそれ」の2つの観点からみていきます。
まず、「逃亡のおそれ」ですが、加害者は相撲界の横綱=著名人であり、逃亡することはほぼ不可能です。また報道によれば、警察からの事情聴取に応じ、捜査に協力しています。
したがって、「逃亡のおそれ」はないと考えられます。

問題になるのは、「罪証を隠滅するおそれ」、要は証拠を破壊したり、壊したりする可能性があるか、という点です。
今回の暴力事件は、防犯カメラ映像などの客観的な証拠がないようであり、そうなると、被害者の話や同席していた人の話が証拠になります。

相撲界の厳しい上下関係の激しい中で、加害者は横綱=現役力士の最高峰であることから、被害者に圧力をかけ、また、同席していた力士と口裏をあわせることは、抽象的には不可能とはいえないと考えられます。
また、あくまで報道ベースですが、暴行の態様や程度について、被害者と加害者で言い分が異なっているようでもあり、そうなると、加害者側が自己の責任を軽くするために、口裏合わせをする動機もあります。

しかし、事件がこれだけ社会的に注目され、関係者は24時間報道機関に追われている中で、圧力をかけたり、口裏合わせをすることは困難であるともいえます。
また、被害者が所属する部屋の親方の姿勢は、強固であり、加害者側が被害者に接触することも困難であることから、「罪証隠滅のおそれ」があるとは言い切れないように考えられます。

評価は分かれるところですが、今回の相撲界における暴力事件で、加害者が逮捕に至らないのは、決して不自然ではないと考えられます。
仮に今後、加害者が逮捕に至ることがあれば、加害者側が周辺に口裏合わせをするなどの事実関係が明らかになり、逮捕しなければ、真相の究明が困難になるような場合だと思われます。

犯罪をしないことが最も大切ですが、何らかの理由で犯罪をしてしまうことはありえます。
タイムマシーンのない現在、過去を変えることはできません。
しかし、事後の対応を適切に行うことによって、不利益を最小限にすることもできます。
例えば、早期に被害者の方に謝罪をし、賠償や示談をすることで、逮捕を免れることもあります。
その際、加害者が直接被害者に謝罪や賠償や示談をすることは難しいのですが、弁護士を通じてであれば、それが可能なこともあります。

逆に、警察からの再三の呼び出しを無視してしまったせいで、軽微な事件でも、逮捕に至ったケースを聞くことがあります。
よくあるのが、軽微な交通違反につき、警察からの再三の呼び出しを無視して、逮捕に至ったケースです。

このように、事後の対応如何によって、逮捕に至らなかったケースもあれば、逮捕に至ったケースもあるのです。

逮捕されれば、自由を奪われ、社会生活を行うことは不可能になります。
社会人の方は仕事をすることは出来なくなります。また、学生の方は、学校に行けなくなります。
逮捕されれば、家族や友人とも、自由に会えなくなります。
鹿児島の場合、比較的軽微な事件でも、地元の新聞やテレビで報道されることもあります。
このように逮捕によって生ずる不利益は重大です。
しかも、現在の法律上、逮捕に対する異議申立ては認められないとされています。
(逮捕に続く勾留については、異議申立てを認める仕組みになっています。)
それゆえに、法律は、逮捕の要件を厳格に定め、また、裁判官による審査も必要としているのです。
(ただし、法律が厳格に運用されているかについては、評価が分かれています。)

何らかの理由で犯罪をしてしまった方は、弁護士に相談されることをおすすめします。

今日は、相撲界の暴力事件を素材に、刑事手続における逮捕について取り上げました。

不安防止条例改正(平成29年7月)について

2017年05月11日

弁護士の山口学です。はじめての投稿になります。
今日は鹿児島県の不安防止条例の改正について取り上げます。

最初に、「不安防止条例」は略称であって、正式名称は、「公衆に不安等を覚えさせる行為の防止に関する条例」です(以下では、「不安防止条例」と言います。)。
これは鹿児島県が定めた条例であり、鹿児島県内においてのみ適用される法律と考えて頂くとわかりやすいと思います。

「不安防止条例」は、様々な迷惑行為を禁止するものですが、主に盗撮行為やつきまとい行為を禁止し、違反した方を処罰するものです。
この「不安防止条例」がこのたび改正され、今年(平成29年)7月1日から施行、すなわち適用されることになります。

改正後の条文は鹿児島県警察本部(以下、「鹿児島県警」といいます。)のホームページに掲載されています。
https://www.pref.kagoshima.jp/ja09/police/documents/58266_20170323134834-1.pdf
改正のポイントについは、同じく鹿児島県警のホームページで紹介されています。
https://www.pref.kagoshima.jp/ja09/police/documents/58266_20170323134754-1.pdf

改正のポイントは主に3つあるとされています。

第1点目は、盗撮が禁止される場所の拡充です。
現在の不安防止条例の条文においては、「道路,公園,広場,駅,興行場,飲食店その他の公共の場所(以下「公共の場所」という。)又は汽車,電車,乗合自動車,船舶,飛行機その他の公共の乗物」(改正前の条文第2条)におけるのぞきや盗撮行為が禁止されているに過ぎず、これを反対に解釈すれば、それ以外の場所での盗撮行為は、条例では規制されていませんでした。
例えば、公衆浴場でののぞきや盗撮行為は、不安防止条例での対象ではありませんでした(ただし、軽犯罪法違反にはなりえます)。

しかし改正後の不安防止条例では、新たに、
①通常衣服をつけない場所におけるのぞきや盗撮行為、
②特定かつ多数の者が利用する場所における盗撮行為、
の2つが新たに規制の対象になりました。

①については、例えば公衆浴場での盗撮行為が禁止されます。
②については、「特定かつ多数の者が利用する場所」の意味が問題になりますが、鹿児島県警の説明によると、例えば、「集会場、会社の事務所、教室、パーティー会場、貸切バス」等が例示されています。

このように、禁止されるのぞきや盗撮行為の対象が拡大したことになります。

第2点目は、つきまとい行為等の規制の拡充や類型化です。
詳細は上記で挙げた改正後の不安防止条例の条文第4条を読んで頂ければと思いますが、禁止されるつきまとい行為が拡充、類型化されています。
この改正の目的は、昨今急増しているストーカー行為の規制を強化することにあるとされています。

第3点目は、常習者への罰則の強化です。
かつて、常習的に盗撮行為などの迷惑行為をしてしまった人の刑罰は、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」とされていました。
これに対して改正後は、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」とされ、罰金額が引き上げられています。
したがって、常習的に盗撮行為などをした方については、より重い刑罰が科されることになります。

また大きくは取り上げられていませんが、改正後の不安防止条例の第2条の2第1項(3)は、「写真機その他の撮影する機能を有する機器(次項第2号において「写真機等」という。)を使用して,衣服等で覆われている人の下着又は身体の映像を記録し,又は記録しようとすること」とあります。
すなわち、盗撮行為はもちろん、盗撮しようとして、カメラ等を向ける行為(下線部)も処罰の対象とされることが明確になりました。
盗撮目的でカメラ等を向ける行為そのものが処罰の対象になるかは、改正前の不安防止条例の条文からは、必ずしも明確ではありませんでした。
しかし改正後の不安防止条例では、盗撮目的でカメラを向けただけで、処罰されることになります。

何らかの理由により、盗撮行為をしてしまい、不安防止条例違反の罪で警察に摘発された方もいらっしゃると思います。
その際重要となるのは、被害者の方に謝罪し、賠償をするなどして、誠意を尽くすことに尽きると言えます。
しかし、盗撮をしてしまった方が被害者の連絡先を知っていることはなく、また知っていたとしても、直接の接触を拒絶されることが多いと考えられます。
他方で、被害者の方の中には、弁護士を通じてであれば加害者からの謝罪や示談に応じるという方も少なくありません。そして当事務所の経験でも、弁護人が間に入ることによって、被害者の方と示談が成立し、刑罰を受けることを回避できた方もいらっしゃいます。

もちろん、処罰するかどうかは検察庁や裁判所が判断することであり、被害者の方と示談をすれば必ず処罰を免れるとは断言できません。しかし、盗撮行為等の性犯罪においては、被害者の感情が尊重される傾向があることから、被害者の方と示談や賠償が出来ずに、処罰を免れた方はほぼいないように思われます。

したがいまして、何らかの理由によって盗撮行為をしてしまった方は、速やかに弁護士に相談されることをおすすめします。

反対に、盗撮行為などの迷惑行為の被害に遭われ、加害者の弁護人ないし代理人と称する弁護士から、示談を持ち掛けられ、どうすればよいか迷っている方もいらっしゃると思います。
特に難しいのは、示談金額です。インターネット等では様々な情報があふれていますが、適切な示談金額は、個別具体的な事件の内容によって異なるものです。一律に10万円、などのように、定額ということは決してありません。
当事務所では盗撮の被害に遭われた方からの相談を受けた場合、被害の具体的状況、被害感情及び類似事例を参照するなどした上で、被害に遭われた方にとって適切と考えられる示談金を助言することもできますので、遠慮なくご相談下さい。

今回は不安防止条例の改正について取り上げました。